今日は、EMC測定に欠かせない測定器の中でもよく名前が挙がる
「スペクトラムアナライザ(スペアナ)」と「EMIレシーバー」について解説します。
EMC業界に入ったばかりの新人エンジニアや学生の方にとって、この2つは「似ているけどどう違うの?」と疑問に思う代表的な測定器です。実際、外観も似ていますし、どちらも「周波数と信号強度を測る」機械なので混同しやすいでしょう。
しかし、用途や設計思想には明確な違いがあります。本記事では、その違いをわかりやすく整理していきます。
今回は初心者向けなので、専門的な数式や複雑な用語の解説は控えます。
スペクトラムアナライザ(スペアナ)とは?

スペクトラムアナライザは、入力された信号を周波数ごとに分解し、どの周波数にどのくらいの強さの信号が含まれているかを表示する測定器です。
例えば、
- 無線通信機器の発信周波数の確認
- オーディオ信号の周波数成分の解析
- 電子回路から放射されるノイズの観察
など、幅広い用途で活用されます。
スペアナの特徴
- 広帯域の信号を解析可能
数 Hzから数 GHz、機種によっては数十 GHzまで観測可能。 - RBW(分解能帯域幅)の可変性
ノイズフロアを下げて詳細に見ることも、広帯域でざっくり観測することも可能。 - リアルタイムに近い観測が可能
スイープ方式で高速に周波数軸を走査。 - 汎用性が高い
EMCだけでなく、通信・研究・音響など多分野で利用。
言い換えれば、「とりあえず信号を見てみたい」ときに使える万能測定器がスペアナです。
EMIレシーバーとは?

EMIレシーバーは、その名の通り EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)を測定するための専用測定器 です。
各国のEMC規格(CISPR、ANSIなど)に準拠した方式で測定できるよう設計されており、認証試験や正式な評価には必須となります。
EMIレシーバーの特徴
- 規格準拠の検波方式を搭載
CISPR規格で定められた「ピーク値」「準尖頭値(QP)」「平均値」を測定可能。 - 帯域幅が規格で固定
例:9 kHz、120 kHzなど。 - ステップ掃引方式
1周波数ごとにじっくり測定するため時間はかかるが精度は高い。 - 測定結果がそのまま規格判断に使える
試験所で必ず使用される。
つまり、EMIレシーバーは「規格に合った測定値を出すための専用道具」なのです。
スペアナとEMIレシーバーの関係
昔のEMC測定では、まずスペクトラムアナライザで大まかにノイズを走査し、その後レシーバーで単一周波数を精密測定する、という使い分けをしていました。
しかし技術の進歩により、この2つの機能を1台に統合した機器が登場しました。
現在のEMIレシーバーは、多くの場合スペクトラムアナライザ機能も標準搭載しています。
(人によっては「両方できるのがレシーバー」という認識ですね(笑))
スペアナとEMIレシーバーの違いを表に整理
項目 | スペアナ | EMIレシーバー |
---|---|---|
主な用途 | 汎用信号解析 | EMI規格試験 |
帯域幅 | 可変(数 Hz~MHz) | 規格で固定(9 kHz, 120 kHzなど) |
検波方式 | 主にピーク検波 | ピーク・準尖頭値・平均値 |
掃引方式 | スイープ方式 | ステップ方式 |
測定スピード | 速い | 遅い(その分正確) |
規格適合性 | なし | あり(CISPR/ANSIなど) |
実際の使い分け
- 開発初期
スペアナでノイズの傾向をざっくり把握
(「どの周波数帯が強いのか?」を素早く確認) - 設計改善の段階
フィルタやシールド対策を行った後、スペアナで改善効果を確認
(効率を考えると高速観測できるスペアナが便利) - 最終評価・試験
EMIレシーバーで規格に従ってピーク値や準尖頭値を正確に測定
(ここでの結果が合否に直結)
このように両者はライバルではなく、補完関係にあるのです。
EMC試験所での実情
実際の試験所では、ローデ・シュワルツ社製のEMIレシーバーがデファクトスタンダードとしてよく使われています。
信頼性が高く、世界中の試験機関で導入されています。
まとめ
- スペクトラムアナライザ:信号を広く観測できる汎用測定器
- EMIレシーバー:規格に従ってEMIノイズを評価する専用測定器
EMCエンジニアにとって両者の理解は必須です。
「スペアナで大まかに解析 → EMIレシーバーで規格準拠の最終測定」という流れを意識しておくと、現場で迷うことがありません。
また、EMIレシーバーは非常に高額(高スペック品なら家が買えるほど!)なので、触る機会があれば丁寧に扱いましょうね(笑)
記事を読んでいただき、ありがとうございました!
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