目次
はじめに
自動車の電子化は年々加速しており、ECU(電子制御ユニット)、センサー、インフォテインメントシステム、ADAS(先進運転支援システム)などが車両全体に張り巡らされています。
これらが正しく動作するためには、外部からの電磁波に耐えられる
EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性) が必須です。EMCについてはこちら
その国際的な基準の一つが ISO 11452シリーズ。
これは自動車内の電子機器が「外部電磁環境からの影響をどの程度受けないか(耐性試験)」を規定した規格です。
本記事では、ISO 11452の概要から各パートの内容、試験方法、OEM規格との関係まで、初心者にも分かりやすく整理して解説します。
ISO 11452シリーズの位置づけ
ISO 11452は、車載機器の電磁イミュニティ試験規格です。
「イミュニティ」とは、外部からのノイズや電磁波に対する耐性を指します。
車載EMC規格の全体像
車載分野には大きく以下のカテゴリがあります:
- 放射エミッション(RE):車載機器がどれだけノイズを出すか
- 伝導エミッション(CE):ケーブル経由で流れ出すノイズ
- 放射イミュニティ(RI):外部電磁波への耐性
- 伝導イミュニティ(CI):ケーブル経由で侵入するノイズへの耐性
このうち、ISO 11452シリーズは主に「イミュニティ試験」に関する規格を定めています。

ISO 11452の構成と各パートの概要
ISO 11452は複数のパートから成り立っており、それぞれ試験方法が異なります。
代表的なものを表に整理します。
表:ISO 11452シリーズの主要パート
| パート | 試験方法 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ISO 11452-1 | 共通事項(総則) | 試験条件や環境の基本ルール |
| ISO 11452-2 | Anechoic Chamber(電波暗室・放射イミュニティ) | ECU単体の耐性評価 |
| ISO 11452-3 | TEM Cell | 小型機器や研究用途 |
| ISO 11452-4 | BCI(Bulk Current Injection) | ケーブル経由のノイズ耐性 |
| ISO 11452-5 | Striplines | 高周波電磁界の影響評価 |
| ISO 11452-7 | Direct RF Power Injection | ECU端子への直接注入 |
| ISO 11452-8 | Magnetic Field Immunity | 低周波磁界の影響評価 |
| ISO 11452-9 | Portable Transmitter Simulation | 携帯端末やキー無線などの影響 |
| ISO 11452-11 | Reverberation Chamber | 室内での高効率試験 |
各パートの詳細解説
ここからは実務でよく登場するパートを中心に詳しく見ていきます。
📘 ISO 11452-1:総則(General)
- すべての試験方法に共通する「考え方」や「定義」をまとめた部分。
- 試験電圧、試験環境、動作モードの設定などを規定。
- 実際に試験を実施する際は、この-1がベースになります。
📡 ISO 11452-2:ALSE法
- 電波暗室でアンテナから電磁波を照射し、機器の誤動作を評価。
- 周波数範囲は 80 MHz~6 GHz が一般的。
- メリット:実車環境に近い、包括的評価が可能。
- デメリット:大型の設備が必要でコストが高い。
🔌 ISO 11452-3:TEMセル試験
- TEM(Transverse Electromagnetic Mode)セルを用いた方法。
- 小型の部品やセンサーの初期評価に有効。
- 低コスト・短時間で試験可能。
- ただし、大型のECUやケーブルを含む実車環境の再現は難しい。
⚡ ISO 11452-4:BCI(バルク電流注入)
- ケーブルにRF電流を直接注入して、ノイズ耐性を評価。
- 周波数範囲は 1 MHz~400 MHz程度。
- 実車配線に近い影響を評価できるため、OEM要求でも多用される。
- 試験は「置換法」「電力制限付き閉ループ法」の2方式あり。
📶 ISO 11452-5:ストリップライン試験
- 平行板構造のストリップライン内にDUTを配置して電磁界を印加。
- 高周波領域での影響を効率的に再現。
- ただし、大型機器や実車規模での試験には制約が多い。
📲 ISO 11452-7:直接注入(DPI)
- DUT端子に直接RF信号を注入。
- 高感度なICや通信系統の耐性を確認。
- 精密評価が可能だが、現実的な実環境との乖離がある点に注意。
🧲 ISO 11452-8:磁界試験
- 低周波(50 Hz~数百 kHz)の磁界影響を評価。
- 例えばハイブリッド車・EVのモーター電流やワイヤレス給電から発生する磁界を模擬。
- 車載バッテリーや電動パワートレインに必須。
📡 ISO 11452-9:ポータブル送信機シミュレーション
- 携帯電話、スマートキー、トランシーバーなど、車内に持ち込まれる無線機器の影響を評価。
- 実用性が高く、OEM規格にも反映されやすい部分。
🌀 ISO 11452-11:リバブレーションチャンバー試験
- 金属製の部屋内で電波を乱反射させ、全方位的な影響を試験。
- 効率よく高周波領域(数GHz)を評価可能。
- ただし、設備が特殊で国内ではまだ普及途上。
OEM規格との関係について
多くの自動車メーカー(OEM)は、ISO 11452をベースに独自の試験条件を追加した 社内規格 を持っています。
ただし詳細条件は守秘義務により公開されていません。
一般的には:
- 試験周波数範囲の拡張(例:最大6 GHz → 18 GHzまで)
- 印加レベルの強化(国際規格より厳しい)
- 試験モードの追加(実車運転モードを模擬)
などが行われています。
つまり ISO 11452を理解することがOEM規格対応の第一歩 と言えます。
EMCエンジニアが押さえるべきポイント
- 規格の基本構成を理解する(ISO 11452のどのパートが対象か)
- DUTの特性に応じた試験方法を選ぶ(小型ならTEMセル、大型なら暗室など)
- OEM規格を念頭に置く(ISOだけでは不十分な場合がある)
- 試験時の動作モード設定が結果に大きく影響する
- 再現性の確保(測定環境やケーブル配置の差で結果が変わる)
まとめ
- ISO 11452シリーズは車載機器の電磁イミュニティ(耐性)試験規格。
- 各パートごとに試験方法が異なり、目的や機器の特性に応じて選択される。
- OEM規格はISOをベースに拡張したものが多いため、まずISOを理解することが重要。
- EMC試験は設備や条件によって結果が変わるため、実務経験と標準理解の両立が求められる。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!
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