はじめに
EMC試験(電磁両立性試験)は、製品を世の中に出すために避けては通れないプロセスです。
しかし現場で実際に測定をしてみると、思わぬ失敗 に直面することが多いものです。
特に新人や若手エンジニアは、試験方法や測定器の扱いに慣れていないため、基本的なミスをしがちです。
この記事では、私自身の体験談を交えながら 「EMC試験でよくある失敗」とその対策 を詳しく解説します。
1. ケーブルの取り回しミス
ケーブルは試験結果に大きな影響を与える要素のひとつです。
例えば、同軸ケーブルを巻いたまま試験 をしてしまうと、巻かれた部分がコイルのように働き、不要な結合が生じます。その結果、測定値が 数dB変化 することもあります。
なぜダメか?
コイル状にすると自己インダクタンスが増加し、外来ノイズとの結合や信号の反射が起きやすくなります。
つまり、本来測定したい「製品が放射するノイズ」ではなく、ケーブルの巻き方による影響 を拾ってしまうのです。
対策
- ケーブルは可能な限りまっすぐに伸ばす
- 必要以上に束ねたり巻かない
- 測定系の配線は試験前に確認
2. アース線と中性線の取り違え
実際に私が経験した失敗ですが、三相4線でアース線に接続するはずが、中性線につないでしまった ことがあります。
なぜダメか?
- アース:安全のために大地と電気的に接続する線
- 中性線:電源回路を構成する電流の帰路
これを取り違えると、機器が誤作動したり、安全性を損なう危険があります。
さらに測定結果も異常値を示し、試験が成り立ちません。
対策
- 接続前に配線図と実機を必ず照合
- 緑/黄のアース色に頼らず、テスターで導通確認 を行う
- 新人に任せる際は ダブルチェックを徹底
3. アッテネータ(Att)の装着ミス
アッテネータ は、強い信号を減衰させて測定器やプリアンプを保護する重要な部品です。
よくある失敗
- 初心者が装着し忘れる
- コネクタが緩んで信号が不安定になる
⚠️ 結果:定在波が立ち、波形が乱れる。
ベテランなら「これはAttが外れている」とすぐ気づけますが、初心者はそのまま試験を進めてしまいます。
対策
- 試験開始前に必ず装着状態をチェック
- コネクタの締め付けトルクも確認
- 波形に違和感があれば、まずAttを疑う
4. GHz帯でのディップ現象
GHz帯の測定では、ちょっとした接続不良が「ディップ(急激な落ち込み)」を引き起こします。
主な原因
- コネクタの緩みや接触不良
- 外来電波の混入(携帯電話、Wi-Fi、無線マウスなど)
特にEMIレシーバーは高感度なので、ノートPCのWi-Fi機能 だけでも反応してしまいます。
対策
- GHz帯ではコネクタの締め付け確認を徹底
- 試験中は不要な電子機器を電源オフ
- 測定環境の「電波クリーン化」を意識
5. プリアンプの飽和
プリアンプは微弱な信号を増幅するために使いますが、入力が強すぎると飽和 して波形が崩れます。
目安
入力が 70~80 dBμV を超えると、プリアンプは正常な動作を維持できず、波形が不自然になります。
初心者の失敗
「ノイズが小さいからプリアンプを入れよう」と安易に考え、入力電圧を確認せずに接続。
その結果、波形が歪み、正しい測定値が得られなくなります。
対策
- プリアンプの入力レベルを事前に見積もる
- Attを併用し、信号レベルを調整
- 波形に不自然さがあれば飽和を疑う
6. LISNの接続不良
LISN(Line Impedance Stabilization Network)は、伝導エミッション測定で不可欠な機器です。
失敗例
- ケーブルのシールドが正しく接地されていない
- ネジが緩んで接触が不安定
対策
- 接続後に軽くケーブルを動かして安定しているか確認
- 定期的に端子やコネクタの清掃を実施
7. バンド切り替え忘れ
測定器にはバンドや帯域幅の切り替え機能があります。
設定ミス = 正しい測定ができない につながります。
例
- 150 kHz以下を測定しているつもりが、30 MHz帯を見ていた
- IF帯域幅が規格に合っていない
対策
- 試験前に「周波数帯・帯域幅・検波方式」を確認
- 自分の目でダブルチェック
8. 校正不足
測定器やアンテナは定期的な校正が必須です。
失敗例
- 校正期限切れの機器を使ってしまう
- 校正証明書を提出できず顧客から指摘
対策
- 年1回以上の定期校正を徹底
- 使用前に校正ラベルを必ず確認
9. 試験環境の不備
電波暗室やシールドルームは、正しく使わなければ意味がありません。
失敗例
- ドアのシールドが完全に閉まっていない
- 室内に不要な金属物を持ち込んで反射が発生
対策
- 測定前に環境チェックを実施
- 必要最小限の機材だけを持ち込む
10. データ整理のミス
試験が正しくても、データ整理のミス で報告書が使えなくなることもあります。
失敗例
- ファイル名がバラバラで再現性がない
- グラフとログが一致しない
対策
- ファイル名ルールを決めて保存
- 測定中にメモを残す
まとめ
EMC試験は、正しい手順と細部への注意 が何より重要です。
ケーブルの取り回しやコネクタの緩みといった小さなミスが、数dBもの誤差を生み、試験結果を大きく狂わせます。
私自身も数多くの失敗を経験しましたが、そのたびに「なぜダメだったのか」を振り返ることでスキルが身につきました。
👉 この記事が、これからEMC試験に臨む方の参考になれば幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!

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