目次
はじめに
製品開発やEMC試験に携わっていると、必ず直面するのが「どの規格を適用すればよいのか?」という問題です。EMC規格は大きく分けて 基本規格(Basic Standards)・一般規格(共通規格)(Generic Standards)・製品群規格(Product Family Standards)・製品規格(Product Standards) の4種類に分類されます。しかし、これらの違いや関係性を正しく理解している人は意外と少なく、初心者エンジニアが迷うポイントでもあります。
本記事では、それぞれの規格の定義や役割、代表例、そして実際の優先度や適用方法について解説します。
EMC規格の4つの分類
1. 基本規格(Basic Standards)
役割:試験方法や測定器の性能を規定する「基礎となる規格」。
特徴
- EMCの「共通のルールブック」に相当。
- 試験方法を標準化することで、世界中どこで測定しても同じ結果が得られるようにする。
- すべての規格の“土台”として利用される。
代表例
- CISPR 16シリーズ:EMI測定器、アンテナ、試験手法に関する規格。
- IEC 61000-4シリーズ:EMS試験方法(静電気放電、放射イミュニティ、伝導イミュニティなど)。
2. 一般規格(Generic Standards)
役割:製品規格や製品群規格が存在しないときに、環境ごとに適用される規格。
特徴
- 製品に直接適用されるが、環境(家庭、工業、医療など)ごとに区分される。
- 製品規格がある場合は、一般規格よりも製品規格が優先される。
代表例(IEC 61000-6シリーズ)
- IEC 61000-6-1:住宅・商用環境 イミュニティ
- IEC 61000-6-3:住宅・商用環境 エミッション
- IEC 61000-6-2:工業環境 イミュニティ
- IEC 61000-6-4:工業環境 エミッション
3. 製品群規格(Product Family Standards)
役割:特定の「製品グループ」に適用される規格。
特徴
- 製品規格と一般規格の中間に位置する。
- グループ全体に共通するEMC要件を定める。
- 個別製品規格が無い場合、まず製品群規格を適用することが多い。
代表例
- CISPR 32:マルチメディア機器
- CISPR 14-1/14-2:家電製品、電動工具など
- IEC 61326:試験・計測機器、制御機器、研究用装置
4. 製品規格(Product Standards)
役割:特定の製品カテゴリ専用に定められた規格。
特徴
- EMC規格の中で最も優先度が高い。
- 開発する製品が対象となる規格があれば、必ず適用する必要がある。
- OEMや業界団体が独自に定めている場合も多い。
代表例
- IEC60947-2(低圧開閉装置及び制御装置)
- IEC62040-2(無停電電源装置)
- IEC60533(船用電気設備及び電子機器)
規格の優先順位と適用フロー
EMC規格の適用には明確な優先順位があります。
- 製品規格(あれば最優先)
- 製品群規格(製品規格が無ければこちら)
- 一般規格(環境ごとに適用)
- 基本規格(常に参照、試験方法の基礎)
実務フロー例
- 医療機器を開発 → IEC 60601シリーズを最優先
- 家電製品を開発 → CISPR 14を適用(製品群規格)
- 新しいIoTデバイス → 製品規格なし → 一般規格(IEC 61000-6シリーズ)を適用
- 試験方法 → 必ず基本規格を参照
図解:EMC規格の階層構造

このように「ピラミッド型」で整理すると理解しやすくなります。
EMCエンジニアが押さえるべきポイント
- 規格は常に改定される → 古い規格を使っていないか要確認。
- 製品規格が最優先 → 客先要求や認証要件に直結する。
- 試験所では基本規格をベースに試験 → 依頼時に規格番号を正確に伝えることが重要。
- 一般規格と製品群規格の違いを理解すると、規格選定で迷わなくなる。
- 年度版は都度確認→たまに古い規格を引用している場合がある。
まとめ
- 基本規格は試験方法の基盤。
- 一般規格は環境別に定義され、製品規格や製品群規格が無い場合に適用。
- 製品群規格は特定の製品グループに共通する規格。
- 製品規格は特定製品に直接適用され、最も優先度が高い。
この関係性を理解することで、製品開発における規格選定がスムーズになり、不要な試験や設計手戻りを防ぐことができます。EMC規格は複雑に見えますが、ピラミッド構造で整理すると一気に理解が進みます。
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