はじめに
皆さんこんにちは。今日は、EMC(Electromagnetic Compatibility、電磁両立性)試験に欠かせない装置のひとつ「LISN(Line Impedance Stabilization Network)」について、初心者の方でもわかるように解説していきます。
LISNは、日本語では「疑似電源回路網」とも呼ばれ、電磁妨害(EMI)試験を行う際には必須の測定器です。しかし、初めてEMC試験に触れる方にとっては「そもそも何をしている装置なの?」と疑問に思うことも多いでしょう。
本記事では、LISNの仕組みや役割、規格との関係、使い方や注意点まで、幅広く解説していきます。最後まで読んで
いただければ、LISNがなぜ重要なのか、その理由がしっかり理解できるはずです。
LISNとは何か?
LISNは「Line Impedance Stabilization Network」の略で、直訳すると「電源ラインのインピーダンスを安定化させるネットワーク」です。
電源ラインを通じて機器から出るノイズを測定する際に、電源条件を統一し、安定した測定を行うために使われます。EMC試験では、被試験機(EUT: Equipment Under Test)が電源ラインにどの程度の伝導ノイズを流しているのかを確認します。そのとき、電源系統のインピーダンスが環境によって変動してしまうと、測定結果がバラついてしまいます。
そこで、LISNを電源と被試験機の間に挟み、常に一定のインピーダンスを与える役割を担うのです。
さらに、電源ラインから出るノイズを効率的にEMIレシーバーやスペクトラムアナライザに導く働きもしています。
つまりLISNは、
- 電源ラインを「基準化」する
- ノイズを「観測できるように抽出」する
という二つの重要な役割を持つ装置なのです。
なぜEMC試験にLISNが必要なのか
「電源と被試験機を直接つないで測定すればいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、その場合には大きな問題が発生します。
- 再現性が確保できない
家庭用コンセント、実験室の電源、発電機など、電源の条件は環境によって大きく異なります。そのまま測定してしまうと、試験所ごとに結果が異なり、規格適合の判定ができなくなってしまいます。 - ノイズが正しく測れない
被試験機が出しているノイズと、電源側から流れてくる外部ノイズが混ざり、どちらの影響かわからなくなります。LISNはフィルタの役割を果たし、外来ノイズを遮断しつつ、被試験機から出るノイズだけを取り出すことができます。 - 規格で定められている
国際的なEMC規格(CISPR、FCC、VCCIなど)では、LISNを使用した試験方法が標準として規定されています。つまり、認証試験を行う場合にはLISNを使うことが必須なのです。
このように、LISNは「測定の正確性」「規格適合性」「試験の再現性」を確保するために不可欠な装置といえます。
各試験所の電源には大体電源フィルタが入っており、電源⇒フィルタ⇒LISN⇒EUTの順番で接続されます。
もし、LISNが無いとインピーダンスが不安定になり、試験所ごとで測定結果がばらつくことになります。
LISNの仕組み(回路の基本構成)
LISNの内部は、シンプルな回路素子で構成されています。主に以下の要素で成り立っています。
- インダクタ(コイル)
電源側から流れてくるノイズを阻止する役割を持ちます。これにより、外部ノイズが測定に影響するのを防ぎます。 - コンデンサ
電源側にノイズを逃がすことで、被試験機のノイズだけを測定回路に取り出せるようにします。 - 抵抗
基準インピーダンスを形成し、常に安定した測定条件を実現します。
回路全体としては、電源と被試験機の間に置くフィルタ兼分岐器のようなイメージです。LISNを通ることで、被試験機の電源ノイズは測定器に送られ、外部ノイズはブロックされます。
規格におけるLISNの位置づけ
EMC試験では、LISNの使用が各国の規格で明確に定められています。
- CISPR 16シリーズ
国際的な基準で、LISNの構造や性能が細かく規定されています。 - FCC Part 15(米国)
無線妨害を規制する法律で、試験時にLISNを用いることが求められます。 - VCCI(日本)
情報処理装置の妨害波規制で、LISNを使った測定方法が採用されています。
また、LISNの使用周波数範囲は一般的に 9kHz~30MHz とされ、この範囲の伝導ノイズを正確に測定できるように設計されています。
LISNの種類
LISNにはいくつかのバリエーションがあります。用途に応じて使い分けが必要です。
基本的に民生系は1,2項、車載系は3項になります。
- 50 Ω / 50 µH +5 Ω LISN、50 Ω / 50 µH LISN
最も一般的なタイプで、家庭用電源や商用機器の試験で広く使われます。 - 三相LISN
三相電源を使用する産業機器や大型装置向け。各相ごとにLISNが必要になります。 - 車載用LISN
自動車規格(ISO 7637、CISPR 25など)に対応した専用タイプ。12Vや24Vの直流電源ラインでの試験に用いられます。
LISNの使い方・接続方法
LISNは、電源と被試験機の間に直列に接続します。手順は以下の通りです。
- 電源ラインをLISNの「電源入力端子」に接続
- 被試験機をLISNの「出力端子」に接続
- LISNの「測定ポート」をEMIレシーバーやスペクトラムアナライザに接続
ポイントは、必ず接地(アース)を正しく取ることです。接地が不十分だと、ノイズが正しく分離できず、誤った測定結果となる可能性があります。
また、単相の装置ではLとNの両方にLISNを接続する必要があり、それぞれのラインのノイズを測定します。
測定例(伝導ノイズ測定の流れ)
LISNを用いた伝導ノイズ測定の一般的な流れを説明します。
- 被試験機(EUT)をLISNを通じて電源に接続する
- LISNの測定ポートをEMIレシーバーに接続する
- 被試験機を動作させ、電源ラインに流れるノイズを測定する
- 9kHz~30MHzの範囲でスキャンし、規格値と比較する
(測定周波数は規格ごとに異なります。大体、9kHzか150kHzから測定します。)
例えば、家庭用電気製品の場合、CISPR 32に基づき、電源ラインから流れるノイズが規定値以下であるかどうかを確認します。測定波形はスペクトラムアナライザで表示され、規格値を超えている場合は設計改善が必要になります。
よくあるトラブルと注意点
LISNを使用する際には、いくつかの注意点があります。
- 接続不良
端子の接触が甘いと、正しい測定結果が得られません。特にアース線は確実に固定する必要があります。 - 複数LISN使用時の誤差
複数ラインで同時に測定する場合、LISN同士の特性差によって誤差が出ることがあります。定期的な校正が必要です。 - LISN内部の劣化
長年使用すると、コンデンサやコイルが劣化し、特性が変化します。規格に基づいた校正を受けることが推奨されます。 - 電流容量の超過
被試験機が大電流を消費する場合、LISNの定格を超えると故障や発熱の原因になります。定格電流を確認して使用することが大切です。
まとめ
本記事では、LISN(疑似電源回路網)について解説しました。
- LISNは電源ラインのインピーダンスを安定化させ、ノイズを正確に測定するために使う装置
- EMC試験では規格により使用が義務付けられている
- 種類や接続方法を理解し、正しく使うことで再現性のある測定が可能になる
- 注意点として、接続不良や校正不足に気をつける必要がある
LISNは一見すると地味な装置に見えますが、EMC試験の信頼性を支える重要な存在です。初心者の方も、この機会にしっかり理解しておくと、EMC試験の全体像がぐっとつかみやすくなるでしょう。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!

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