はじめに
「スマホをスピーカーの近くに置いたらジジジッと音がする」
「電子レンジを使うとWi-Fiが遅くなる」
こんな経験をしたことはありませんか?
これらはすべて EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性) に関係しています。
電子機器は必ず電磁波を出し、同時に外部から電磁波の影響を受けます。
その結果、思わぬ誤動作や不具合につながることがあります。
この記事では、なぜEMC対策が必要なのか を初心者でも理解できるように、身近な例から国際規格まで体系的に解説していきます。
EMC対策とは何か?
EMCの意味
- EMI(Electromagnetic Interference):自分が発する電磁妨害
- EMS(Electromagnetic Susceptibility):他から受ける電磁耐性
この2つのバランスを取り、電子機器が「互いに干渉せずに共存できる状態」にすることを EMC対策 と呼びます。
EMCの考え方
- 「他の機器に悪影響を与えない」
- 「外部からの電磁波に耐える」
言い換えれば、電磁波社会で仲良く共存するルール作り がEMCなのです。
EMC対策が必要な理由
1. 安全性の確保
医療機器や自動車などの誤作動は、人命に関わる深刻なリスクを生みます。
- ペースメーカーが誤動作すれば生命の危険
- 自動車のブレーキ制御が乱れれば事故につながる
- 航空機の電子制御がノイズで誤作動すれば大惨事に
👉 EMCは見えない部分ですが、安全を支える基盤技術 です。
2. 法規制への適合
各国にはEMCに関する規制があります。これをクリアしないと製品を市場に出せません。
- EU:CEマーキング(EMC指令)
- アメリカ:FCC規則
- 日本:電波法、薬機法、電気用品安全法
これらの規格は国際的に整合が進んでおり、世界市場で製品を販売するには EMC適合が必須条件 です。
3. 製品の信頼性・品質向上
EMC性能の低い製品は、
- 壊れやすい
- 長時間安定動作しない
- 他機器に迷惑をかける
といった評価を受けます。
結果的にブランド価値の低下につながり、長期的なビジネスに大きな影響を及ぼします。
4. ユーザー体験の向上
- Wi-Fiが途切れる
- 音声が乱れる
- ディスプレイにノイズが走る
こうした体験はユーザーの不満となり、製品離れにつながります。
EMC対策は表に見えませんが、快適な製品体験を支える縁の下の力持ち なのです。
EMC対策を怠った場合のリスク
EMCを軽視すると、次のような問題が起こります。
- 規格不合格 → 発売延期・再試験コスト
- 市場リコール → 莫大な回収・修理費用
- ブランド失墜 → 消費者の信頼を失い長期的な損失
特に国際市場を狙う製品は、規格不合格が 数十億円規模の損害 に発展することも珍しくありません。
EMC対策の基本手法
回路・基板レベル
- シールド:金属ケースでノイズを閉じ込める
- フィルタ:不要な周波数成分を除去
- グラウンディング:適切なアース設計
配線・筐体レベル
- ケーブルの長さや配置を工夫
- アースポイントの最適化
- 導電性ガスケットで隙間からの漏洩を防止
ソフトウェア的工夫
- スイッチング周波数の制御
- 通信プロトコルでのリトライ設計
👉 EMCは「ハード設計+ソフト制御」の両方からのアプローチが重要です。
EMC規格と法規制の動向
- CISPR(国際無線障害特別委員会):国際的なEMC規格を策定する委員会。主に無線妨害(エミッション)に関する基準を担当。
- IEC(国際電気標準会議):電気・電子分野の国際規格を策定する組織。多くのEMC関連規格の母体。
- ISO(国際標準化機構):幅広い産業分野の国際規格を策定する組織。自動車のEMC規格などでも関与。
- 医療機器規格(例:IEC 60601-1-2):医療分野におけるEMC要求を定めた規格。患者安全を守るための重要基準。
さらに、5G/6GやEV、自動運転といった新技術の普及に伴い、EMC規制はますます重要性を増しています。
EMC試験の流れ
1. 事前設計・シミュレーション
- ノイズ源を特定し、試作段階から対策を検討
2. 試作段階での評価
- EMIの原因を特定して対策を追加
- プロトタイプで放射・伝導ノイズを測定
3. EMC試験所での評価
- 放射エミッション試験:不要輻射を測定
- 伝導エミッション試験:電源ラインを通じたノイズ測定
- イミュニティ試験:外部からの電磁波への耐性評価
4. 合格・認証
- 規格に合格すれば、各国市場で販売可能となる
EMCとこれからの製品開発
IoT・スマート家電
- 無線通信機器の増加で電磁干渉リスクが上昇
- 家庭内複数機器間の干渉対策が必須
EV・自動運転車
- 高電圧・高周波を扱うため、従来以上に厳格なEMC対策が必要
- バッテリー・モーターからのノイズ制御も課題
5G/6G時代
- 規格改定への迅速な対応が求められる。
- 超高周波帯の利用で、配線・シールド・フィルタ設計がより複雑に。
まとめ
- EMC対策は、安全・法規制・信頼性・ユーザー体験のすべてを守る必須技術
- EMCを怠ると、開発コストや市場リスクが跳ね上がる
- 設計段階からの対策が、成功する製品開発のカギ
表には見えませんが、EMCは私たちの生活を支える「電気製品の安心・快適の基盤」なのです。
今回はなぜEMC対策が必要なのかを全般的に話しましたが、
機会があればそれぞれのEMC対策に焦点を当てて解説しようと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!

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